<判例> S不動産ビジネス事件 -固定残業代-

事案の概要

東京地方裁判所令和元年7月24日判決
 本件はホテルの設備管理等に従事するものの仮眠時間が労働時間に該当するかが主たる争点であった事案である。この訴訟ではその他の争点として固定残業代の有効性が争われたので、ここでは固定残業代の判断について紹介する。

判旨

 「時間外労働等の対価として労働基準法37条所定の割増賃金を支払ったといえるためには、当該手当が割増賃金の支払いの趣旨であるとの合意があることまたは基本給及び諸手当の中に割増賃金の支払いを含むとの合意があること」を前提として、「雇用契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金にあたる部分と同条の定める割増賃金にあたる部分とに判別できることが必要」とし、本件では明確に区分できるかについて、調整給を含めた基本給につき45時間の残業代を含むとしたのみで、調整給が何をさすのかが具体的にわからないこと、時間数の定めはあるが割増賃金の種類が示されていないことなどから、固定残業代の定めがあると主張し残業代支払義務がないことを主張した被告の主張を否定した。

解説

 本件では固定残業代が問題となった部分で、固定残業代を定めるというには、対価性が明確であることが必要であり、かつ、明確区分性が必要であるとした最高裁判例をもとに、具体的に判断をしている。

 固定残業代は一時この定めがあれば残業代の計算等が楽になること、残業時間の管理が容易となることなどから採用する企業が増えたが、最高裁判例で一定の要件を満たさない場合には残業代が未払いとして扱われることが明らかとなっている。

 業務上、就業規則などを起案する際に最高裁の基準をベースにしないと専門家としてミスをしたと評価されかねないので、明確に上記基準を意識して規則を定める必要がある。

 通常の賃金と割増賃金の部分の比較ができないと、法に従って割増をしたかが判断できないため、明確区分性は重要である。
規則等を定めるに際しては、これを意識し、後で計算ができるようにし、給与明細などでも確認できるようにしておくことを意識すべきだろう。

概要

 固定残業代について、基本給と残業代部分が明確に区分されていないことを理由として、残業代が割増賃金として支払われたといえないとして残業代の支払いが認められた事例