全日本手をつなぐ育成会事件 判例

全日本手をつなぐ育成会事件

東京地方裁判所平成29年8月10日判決

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事案の概要

本件では、被告法人Aが赤字が続き、このままでは事業の継続が困難であると判断し、解散決議を行った。その後、解散前に従業員に希望退職を募ったが、それに応じなかった従業員がいた。Aはその事業を類似の事業を行っている被告法人Bに承継させ解散した。解散にあたり、従業員を解雇した。従業員がAに対し解雇の無効を主張し、Bに対して従業員の地位にあることを主張して本件訴えが提起された。

判旨

被告法人(上記A)の解散及び被告連合会(上記B)の発足の当時、会員の種類及び出自、役員、事業の内容がほぼ共通しており、かつ、被告法人は、被告法人から被告連合会への会員の承継や事業の承継に関与し、被告らの役員の構成が同一のものになることを前提としながら解散などの手続を進めていたものというべきである。また、被告法人と被告連合会の各収入源についても、その主要部分を始めとして共通しており、かつ、被告法人は、被告法人から被告連合会への上記収入源の承継に協力していたというべきである。と認定し、本件では勤務法人が解散した事案であるが、整理解雇の法理を適用して判断すべきとした。具体的な結果は解雇を有効としている

解説

事業を廃止する際、契約当事者の一方である会社(事業主)の事業がなくなるので、当然にそれ以降の雇用を維持することに合理性はない。本件では法人が解散した事案であり、法人が解散する以上、契約当事者の一方が存在しなくなるのであって、雇用契約は終了することになる。
ところで、本件は、法人が解散したがその事業を承継した別法人が存在する。企業などが廃業する場合に、その事業を他の企業に譲渡して対価を得て債権者への配当にあてるなどの措置が取られるのは通常のことであり、事業を承継する法人が存在するとしても当然に従業員との雇用契約が引き継がれることはない。

したがって、解散法人と事業を承継する法人との間で特に契約がない限りは雇用契約を引き継ぐことはないといってよい。
もちろんこれを悪用した場合に問題になることは言うまでもないが、本件では解散法人の事業を継続することが困難になった事案でありそのような目的はない。

本件では、裁判所の認定のように、事実上役員などが同一であることを考えると、別法人は無関係であるとまでは言えないとして、解雇を自由にすることを認めずにブレーキをかけた事案であるといえる。整理解雇の法理を適用したのは、法人が同一であるとは言えないが、運営体制がほぼ変わらないこと、赤字事業を引き継ぐ法人で従業員を雇用することが可能かどうかという問題があること(財政基盤は変わらず今後も黒字に転換することは困難である)、などを考慮したものと言える。