2018/05/24
シュプリンガー・ジャパン事件 判例
シュプリンガー・ジャパン事件 2018.3.13
東京地方裁判所平成29年7月3日判決
育児休業取得後の解雇を無効とした事例
事案の概要
原告は被告会社の従業員であったが、出産にあたり、産前産後休暇及び育児休業を取得したのちに被告が原告を解雇した。そこで解雇の無効および損害賠償請求を求め提訴したのが本件である。
判旨
「外形上。妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいは、これを当然に認識すべき場合において、妊娠等と近接して解雇が行われたときは、均等法9条及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから、このような解雇は、これらの各規程に反しており、少なくともその趣旨に反した違法なものと解するのが相当である」とし、問題行動のある従業員であっても解雇に至るまでのプロセスをたどっていなかったとして、解雇の無効および損害賠償請求を認めた。
解説
本件は、問題のある社員の対応に苦慮していた会社が、このままでは上司らが疲弊してしまう、また、妊娠にあたって休業するときの引継ぎの際に、業務用メールを同じセクションの他の従業員と共有するよう具体的な指示を出していたものの、それが十分に行われていないため業務に支障が出た事案である。
問題社員として認識されており、自分の業務のやり方以外を認めず、上司から報告を求められても、自分の判断で報告しても意味がないと考えた場合はそのまま報告をしないなどの行動があり、上司が交代するように組織変更まで会社がしたという経緯がある。本件では、産前産後の休暇に際しての引継ぎが指示どおりに行われないなど、様々な問題が積み重なったために育休取得後に解雇した事案である。問題社員であるからといって直ちに解雇することができないので、通常は注意をする、などの軽い処分から始め、場合によっては他の部署への異動などを経て適性を見てから解雇という処分となる。
しかし、本件では産前産後休暇及び育児休業で出勤しておらず、そのため他の部署で様子を見ることができなかった。そこで会社は解雇という手段にでたが、やはり段階を踏んでいなかったところは問題であろう。なお、本件は産前産後休暇及び育児休業に重なってしまったために、均等法などに違反するとされたが、タイミングがここだっただけで、妊娠出産を理由とした解雇とはいいがたいと思われる。