2018/05/28
K社事件 判例
東京地方裁判所平成29年5月19日判決
社内暴力を理由とした期間途中の解雇を無効とし、雇い止めを有効とした事例
事案の概要
原告は約12年間にわたり、半年ないし1年の期間をさだめて雇用契約の更新を繰り返してきていた。原告は作業所内で他の従業員と肩がぶつかり、その従業員を突き飛ばし台車にぶつけ、胸ぐらをつかむような動作をして近寄るなどした。被告会社は原告を諭旨解雇としたが退職届を提出しなかったため、懲戒解雇処分とした。これを不服として原告が解雇の無効および期間満了による契約の終了を争った。
判旨
◇解雇について
「原告には暴行に当たる行為があり、懲戒に相当する事由が認められるが、その契機は偶発的で、態様や結果が特に悪質なものともいえず、その背景には、原告の自己中心的、反抗的な行動傾向や勤務態度があり、反省も不十分であったことを考慮しても、期間満了を待つことなく雇用契約を直ちに終了させる解雇を選択せざるを得ないような特別の重大な事由があるとは認めるに足りない」ので解雇は無効とした。
◇雇い止めについて
「原告に契約期間の満了時に有期雇用契約が更新されると期待する合理的な理由があっても、被告には有期雇用契約の更新を拒む特段の事情があったというべきである」として有効とした。
解説
解雇その他の懲戒は、就業規則等の根拠に基づくものでも、懲戒にかかる労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でないと認められるときは懲戒権の濫用として無効となる。解雇に関しては雇用契約の終了という効果が発生し、また、「懲戒」としての制裁が含まれるので、再就職などで不利となることがある。そのため、懲戒解雇に当たってはやむを得ない事由が必要である。
この判決では、懲戒解雇に該当する事由ではないとしたうえで、契約の更新に当たっては従業員の反省の有無、程度などを考慮して雇い止めが可能であるとしている。本件では約12年にわたって契約の更新をしてきた従業員の雇い止めであるので、従業員には契約更新がされるとの合理的な期待があるケースだといってよいが、本件では勤務態度なども考慮して有効とした。
なお、判決では有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(厚労省告示357号)1条の手続きをとっていないが、これは告知であって遵守しなかったからといって雇止めができなくなるものではないとした。