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2024.05.01
【判例】 定年再雇用者の給与を引き下げることは、同一労働同一賃金に違反するのか?

名古屋自動車学校事件
最高裁判所第一小法廷令和5年7月20日判決

事案の概要

同一労働同一賃金の原則について検討された事件。

一審原告は、被告自動車学校に教習指導員として勤務し定年退職。定年退職後に嘱託職員として1年の期間を定めた有期雇用契約を締結し勤務。
嘱託職員としての業務や責任に差異はなかった。基本給・賞与などが減額されたため、提訴し、一審二審ともに勝訴した。そこで一審被告が上告した。

判旨

基本給及び賞与等一時金について「性質や支給されることとされた目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものにあたるとした原審の判断には同条の解釈適用を誤った違法がある。」として上告人敗訴部分を破棄し差し戻した。

解説

本件は、定年後に嘱託職員として再雇用した職員の問題です。
定年が延長されていくことなどで会社の財務負担も大きいため、国の政策方針から、雇用せざるを得ないという事情に苦しむ担当者もいることは容易に想像できます。

本件で、最高裁は「労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結している労働者の公正な処遇を測るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。両者の間の労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。」「もっとも、その判断に当たっては、他の労働者の相違と同様に、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。」とした最高裁の判断を引用して、事案の検討を行うべきだとしました。

基本給の目的について最高裁は、勤続年数を反映しているもののそれのみ決められるものではなく、また同時に正社員の基本給には功績の評価も含まれることからすると、職能に応じた支給額が含まれる「職能給」と考える余地があり、嘱託職員に対する給与の支払いとは異なる目的を有すると考えることができると認定した。

また、嘱託職員は役職に就くことは考えられておらず、正職員とは異なる基準が定められていたことからすると、嘱託職員の基本給は正職員に対するものとは目的が異なると考え得るとして、原判決の上告人(会社)敗訴部分を破棄して名古屋高裁に差し戻しました。

正職員の処遇は人事の問題などもあり、また、労使交渉で雇用確保と賃上げの問題などが話し合われていることを考えると、こういった事情を考えずに労働契約法20条を適用されてしまうと現場の労務担当者が苦慮している事情を無視することになり、現場を知らない判断と言われかねない。この点でこの最高裁の判断は妥当といえるでしょう。

概要

正職員と定年退職後の嘱託職員の基本給及び賞与等に差異があることが、労働契約法20条で禁止される不合理な差別であるとした原判決を最高裁が基本給や賞与の支給目的や性質に照らして違いが不合理であるかの判断が誤っているとして、単純に差異があることのみでは不合理とは限らないとしています。


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