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2023.12.01
【Q&A】 勝手に残業する社員にも残業手当を支給する必要があるのか?

これは、社長からよくあるご質問の一つです。

1 不必要な残業であるとしても労働の実態があれば支払いは必要

普通に考えて、今日やらなくてもいいような仕事をやり、残業をしているような場合も実際労働しているならそれについては残業の代の支払いが必要です。

これを 暗黙の明示 といいます。

明日やればいいのに今日やっている これを見過ごしている = 認めた ということになります。

原告のタイムカードについては、その上司が逐一打刻の漏れや誤りについて確認をしていることからすれば、被告会社が原告の出退勤時刻を管理するために用いていたことは明らかであり、被告会社が原告に対し相当程度の量の業務を行わせていたことも併せて考えると、原告が打刻された退勤時刻まで被告会社の明示又は黙示の指示に基づき就労していたと推認できる。

東京地裁令和2年1月16日判決
被告は何らこれを抑制する措置をとっていなかったことからすると、原告らの前記時間外労働(深夜労働)のうちみなし残業時間を超える部分については、少なくとも、被告の黙示の指示があったというべきである。
そうすると、被告は、労働基準法37条により、原告らのみなし残業時間を超える時間外労働(深夜労働)に対しても賃金を支払う義務を負うものである。

横浜地裁平成19年10月30日判決

2 無駄な残業と認められれば支払いが不要なケースもある

神代学園ミューズ音楽院事件 東京高裁平成17年3月30日判決(管理監督者)

事案の概要
(1)音楽院を個人経営し、学校法人の理事長に就任していた者が賃金体系の変更を行ったため、役職者については時間外手当が支払われないこととなった。
(2)当該音楽院の従業員らは労働組合を結成し、当該経営者と三六協定を締結した。
 三六協定の締結前、当該経営者は三六協定が未締結であることを理由として、職員の時間外労働及び休日労働を禁止し、残務がある場合には役職者が引き継ぐ旨の業務命令を発していた
(3)原告らには、教務部長として講師や学生の管理等の業務を、事業部長として学生募集等の広報業務と経理業務を担当する者や教務課長などがいた。
(4)原告らは、時間外労働に対する割増賃金の支払いを求めて訴えを提起した。
第一審は従業員らの請求を一部認容した。

判旨・判決の要約 控訴棄却,附帯控訴一部認容,一部棄却

(1)労働基準法41条2号の規定に該当する者が時間外手当支給の対象外とされるのは、その者が、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、そのゆえに賃金等の待遇及びその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられている限り、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないという趣旨に出たものと解される。

(2)原告らが、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限を経営者から実質的に付与されていたものと認めることは困難である。

(3)原告らに支給される基本給と役職手当だけでは、厳格な労働時間の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないといえるほどの優遇措置が講じられていると認めることは困難である。

この判例では、明確に残業が禁止されているような場合で、それでもやむを得ない事情があるようなことはなかったとして、勝手な残業については賃金支払いの必要はないとしています。

しかしながら、一般企業では、完全に残業を禁止することは比較的難しく、この判例を盾に勝手な残業については残業代は支払わないとするのは危険です。
 

3 勝手な残業に対する対応方法

1 残業申請制の導入

残業や休日労働をする際は、事前の申請と承認が必要とし、認められない場合は、残業をしてはいけないとする制度です。
これであれば、今日やらないでいい仕事は明日の朝やればいいということになり、残業できなくなります。

ただ、残業代を払わないために、申請制とし、認められない場合でも実態として残業をして作業をしているような場合は、実態の方を優先しますので、残業代の支払いが必要となりますので、気を付けなければなりません。
 

2 評価の基準をはっきり伝える

よく、遅くまで残っている従業員を評価する会社があります。しかし、短時間で効率よく作業を行い、残業代の支払いがない社員を一番評価する必要があります。

「時間ではなく、労働効率が高い社員=短時間でより多くの成果を上げる社員を高く評価します」と明言し、無駄な残業をし、労働効率が悪い社員低く評価する仕組みを作る必要があります。
 

3 残業申請(許可)制を導入するならジョブカンなどの勤怠管理ソフトの利用を

残業や休日出勤、有給取得全てを申請と許可という流れでつなげることができます。

ちなみに、当事務所も原則残業は禁止で、月のうち残業があっても15分あるかないかで、2023年は残業はゼロです。12月は年末調整時期ですが、それでも残業をしている職員はいませんし、休日出勤など、開業以来1度もさせたことはありません。

残業代の支払いがないとわかっていますので、その分基本給を上げることには抵抗がありません。おそらく職員も時間単価で考えれば他社よりも厚遇であると感じてもらっていると思います。

他社と違う働き方を目指せば、総額人件費は変わらなくとも、時間単価は変わりますから、どちらで働き対価は明白で、募集をかけても比較的早くいい人材を見つけることができています。まさにいいスパイラルが働いています。
 

4 効率よく働く社員の給料が下がるのを避けたい

10の作業を8時間でやる社員と、同じ作業を10時間でやる社員がいる場合、不思議なことに後者の社員のほうが多くの給料を得ることになります。
経営者としては、当然前者を評価するはずですが、中小企業の場合、評価制度がうまく機能していないことが多く、前者も後者も給料がほとんど変わらず、残業時間の大小で、評価と給料が逆転することがあります。

効率よく働いていた社員は、こういった現象をどう思うかというと、言うまでもなく、まじめに一生懸命働くことがばかばかしくなり、手を抜いて作業を始めるか、他社への転職を検討し始めます。

どちらにしろ、会社にとっては、大きな損失となります。

1 賞与で差をつける方法もあります

成果に比例しない残業代を払っている場合は、賞与を減らすなどの方法もあります。逆に、労働時間以上に成果を出す人については、賞与を増額して差をつけなければなりません。

だらだら働いて残業代を稼いでも結局賞与が減って年収が変わらないなら、少ない時間で多くの成果を上げ、早く帰って翌日に備えるほうがいいに決まっています。
 

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