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2023.11.10
【判例】 70時間を含む固定残業手当の制度は、有効なのか?固定残業制度の可否は?

事案の概要

原告は被告会社に勤務していたところ、被告会社は固定残業代制度を採用していた。勤務時間が遅くなることから、時間外70時間、深夜30時間相当の固定残業代が制度として設定されていた。残業代については、固定残業代ですでに支給されている金額については支給しないとなっていた。
退職後、原告が残業代の支払いがなかったとして提訴した案件である。
 

判旨

 雇用契約においてある手当が時間外手当になるかなどは、契約書記載の内容のほか、具体的事案に応じて判断すべきであるとした最高裁平成30年7月19日判決を引用したうえで、本件事案について判決した。
 「給与規定における賃金の種類、本件固定割増手当規定の規定振り及び時間外勤務手当の算定方法に照らすと、被告の賃金体系上、固定割増手当は時間外労働及び深夜労働に対する対価であることが明らかにされているというべきである。」実際に支払われた固定割増手当の額は基本給を基礎賃金として計算した70時間の時間外労働と30時間の深夜労働に対する割増賃金の額と概ね一致する。加えて、隔月の原告の実際の時間外労働時間数及び深夜労働時間数に上下はあるものの、「被告は、割増賃金の額が固定割増手当の額を上回る場合にはその差額を支払っていたことを考慮すると、本件労働契約上、固定割増手当は時間外労働及び深夜労働に対する対価であるとされているとみるべきである。」
 

解説

 本件は固定残業代の適法性が争われた事案です。固定残業代制度を採用したからといって一切の割増手当を支払わなくてよいことにはならないというのはもはや当然の前提です。本件でも実際の勤務時間の一覧が裁判所に提出されているようで、割増の必要な時間について計算され検討されています。
 固定残業代制度を採用したからといっても出退勤管理は必要であり、契約で定めた時間を超えた場合は割増賃金の支払いが必要ですが、固定残業代の中でも勤務時間数と割増の関係で、その金額が固定残業代とおおむね一致する必要があり、割増が適法になされているかは給与計算の際に確認しておく必要があるので、労働契約時にきちんと計算したうえ設定をする必要があります。
 なお、本件は時間外70時間という長時間についての固定残業代制度ということから、残業時間の設定が長すぎるので、公序良俗違反で無効であるとの主張もなされましたが、この点について裁判所は有効であるとしました。それでも、70時間はやはり長いと考えられますので、固定残業の含み時間は60時間までとするのがいいかと思います。
 

概要

 固定残業代制度を採用している会社に対して退職者が未払い残業代の支払いを求めた事案であるが、裁判所は金額を計算すると、固定残業代は時間外の割増賃金の計算におおむね一致していること、所定の時間を超えた場合には残業代がその分支払われていることから固定残業代制度が有効であるとした。
 


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