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2023.10.31
【判例】 定年後再雇用の方の給与について、年齢給部分をカットし給与が下がることは労働契約法20条の違反となるか?

事件の概要

五島育英会事件 東京地方裁判所平成30年4月11日判決

定年退職後に有期雇用契約で再雇用された原告が、定年退職前の賃金の6割の給与となったことは、有期雇用であることによる不当な賃金の差異であるとして、期間の定めのない雇用契約と有期雇用契約との差異が労働契約法20条に違反するとして賃金の差額(これが認められないときは不法行為による損害賠償)を請求した。
 

判旨

 本件労働契約の相違は、無期労働契約を締結している労働者である専任教諭の労働条件については、本件専任教員就業規則及び本件給与規定が適用される一方、定年退職後は有期労働契約をした労働者たる嘱託教諭として雇用され、その労働条件については、本件嘱託等就業規則及び本件定年規定が適用されることにより生じたものであるから、労働者が締結している労働契約の期間の定めの有無に関連して生じたものであると評価することができる。

 入職1年目である22歳の標準賃金が21万6000円であるのに対し、基本給の額が最も高くなる60歳から定年までの間の標準賃金が62万8000円と極めて年功性の高い賃金制度がとられていて、定年退職後の金銀は30代半ばの教諭と同程度だと指摘した。

 そして「嘱託教諭の基本給等を退職前の約6割に相当する額とする旨定めた本件定年規定は、原告も構成員であった本件組合と被告との合意により導入されたものである。賃金は労働条件の中核たる要素の一つであり、この点に関して労使間の交渉及び合意を経て導入されたことは労使間の利害調整を経た結果としてその内容の合理性を相当程度裏付けるものとして考慮するのが相当である。」として原告の請求を棄却した。
 

解説

本件では、期間の定めの有無で給与が異なるという点から労働契約法20条に違反するのではないかという点が争われたものです。

裁判所は雇用期間の定めの有無により差異が生じているものと評価して、その相当性を検討するとしました。年功序列の賃金体系をとっており、年齢が高ければそれによって給与が増額されているシステムを採用している被告にとっては、定年前は年齢給の点で労働の内容とは別に一番賃金が高くなっていることになります。そうすると、一定の年齢で年齢給による増額をやめるなどの対応をしないと定年退職前後での給与の減額が困難となる可能性も高く、会社としては定年退職後の再雇用で退職前の労働条件と同じ基準で雇用することは困難だといえるでしょう。それは、人件費が高騰し、経営を圧迫することになるからです。

年功序列式で、年齢給が支給されているような企業では、定年退職後は年齢給に相当する部分を廃止するような規定であったとしても金額が不相当ではない限りは相当性は否定されないということが予想できます。


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